
社員寮の老朽化や維持コストの高騰を背景に、社員寮を手放すという判断を下す企業が増えています。
しかし、社員寮の売却は単なる不動産取引ではありません。そこには、社員の生活環境や採用・定着に関わる影響、さらには企業の資産戦略そのものの見直しが伴います。
本記事では、社員寮の売却を決めた企業が、どのようにしてスムーズかつ戦略的に進めるべきかを整理します。売却の進め方やスキーム設計の考え方に加え、売却後に社員の住まい機能をどう維持・再構築できるかについても解説します。
社員寮の老朽化や維持コストに悩み、「売却しかない」と考えていませんか?
実は、社員寮を手放さずに活かす選択肢もあります。
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目次
なぜ今、社員寮の「売却」が増えているのか
かつて社員寮は、採用や人材定着のための重要な福利厚生施設でした。しかし近年は、さまざまな要因から「保有し続けるメリット」よりも「手放すことの合理性」が上回るケースも増えています。
老朽化と修繕費の増大
築30年を超える建物では、耐震補強や設備更新が必要になるなど、修繕コストが急増します。また入居者が減少している場合、修繕費を回収できず、赤字運用となるケースも少なくありません。
社員ニーズの多様化
勤務地に縛られない働き方や在宅勤務の普及により、「会社近くに住む」必要性が低下しています。これまでの”一極集中型”の社員寮では、柔軟な人材配置やライフスタイルの多様化に対応しづらくなっているのです。
不動産・資産戦略の見直し
企業全体で遊休資産を整理し、本業投資へシフトする動きが広がっています。社員寮の売却は、固定資産の圧縮や資金流動化の手段としても注目されています。
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売却前に整理すべき3つの視点
売却を決めた後でも、すぐに手続きに進むのではなく、まずは自社の目的と条件を明確化することが欠かせません。
① 売却の目的を明確にする
資金調達が目的なのか、維持コスト削減か、または施設の老朽化対策か。目的が異なれば、売却スキームや条件設定も変わってきます。
「短期的な収益確保」だけでなく、「将来的な社員支援をどうするか」という視点も併せて整理しましょう。
② 社員寮機能をどう補完するか
入居者がいる状態での売却では、退去や移行のタイミングが課題となります。
外部の社員寮サービスや住宅補助制度など、代替策を同時に検討しておくことで、社員の混乱を防げます。
③ 社内連携体制を整える
人事・総務・財務・法務など、複数部署が関係するのが社員寮の売却です。
法的手続きや税務処理だけでなく、社員説明の段取りも一元的に進められる体制づくりが重要になります。

社員寮を「どう売るか」スキーム別の特徴と選び方
社員寮の売却といっても、売却方法には複数の選択肢があります。目的やタイミングに応じて、最適なスキームを選ぶことが大切です。
一括売却(完全譲渡)
最も一般的な手法で、土地・建物をまとめて売却します。資金化までのスピードが早く、経営判断として明確な区切りをつけやすい反面、社員寮機能は即時に失われるため、入居者対応の段取りを慎重に行う必要があります。
リースバック(売却後も利用継続)
売却後も自社が賃借人として同じ建物を一定期間利用できる方法です。
社員が段階的に退去するまでの“移行期間”を確保でき、突然の閉鎖リスクを避けられます。中長期で社員寮を外部サービスに切り替える場合の中間策として有効です。
分割・一部売却
土地の一部のみを売却し、残りを将来的な寮再建や別用途に活用する方法です。
資金化と自社活用のバランスを取ることができるため、グループ会社などが多い企業で採用されることがあります。
用途制限付き売却(事業者・自治体への譲渡)
学生寮や外国人材向け住宅など、地域課題の解決を目的に用途を指定して売却するケースです。企業の社会的責任(CSR)やESG活動の一環として評価されることもあります。

売却を円滑に進めるための実務プロセス
売却が決定してから実際の契約に至るまでには、多くの調整が必要です。特に「人」と「資産」の両面を扱う点で、一般的な不動産取引よりも慎重な進行が求められます。
① 資産の現状把握
建物の状態、土地の権利関係、修繕履歴などを整理します。必要に応じて不動産鑑定士による評価や耐震診断を実施し、適正な価格と条件を見極めます。
② 社内合意形成
売却による影響は人事・経理・経営企画など多岐にわたります。特に、社員寮を福利厚生として活用している企業では、人事部門との調整が不可欠です。
③ 売却先・仲介業者の選定
地元不動産会社、ディベロッパー、自治体など、売却後の用途や社会的意義を踏まえて選定します。単純な「高値売却」だけでなく、企業イメージや社員への影響も考慮すべきポイントです。
④ 契約・登記・税務手続き
譲渡益課税の発生や帳簿処理の方法など、税務面での対応も忘れてはなりません。契約書には、引き渡し時期や現状回復条件などの細部を明記し、トラブルを防ぎます。
⑤ 社員・入居者への説明
入居者にはできるだけ早い段階で説明を行い、退去までのスケジュールを共有します。代替住宅の紹介や補助制度を併せて提示することで、混乱や不満を最小限に抑えられます。
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売却後の「社員の住まい」どう確保するか
社員寮を手放した後も、社員の生活基盤を支える仕組みは必要です。「物件を保有しない社員寮運用」は、外部サービスを活用することで十分に実現可能です。
住まい戦略を採用・定着施策と連動させる
社員寮を失うことで採用力や定着率が落ちるのでは?と不安視される企業もありますが、住環境を柔軟に支援する制度設計は、むしろ若手層からの評価が高まる傾向にあります。
「社員を支える仕組み」をどう再構築するかが重要です。
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外部委託型社員寮サービスの活用
外部の社員寮サービスを利用すれば、企業は物件を保有せずとも、社員に対して家具・食事・管理体制を備えた生活環境を全国規模で提供できます。
転勤・新卒採用・研修など、利用期間や人数の変動にも柔軟に対応できるため、これまで自社寮の維持管理にかかっていたコストや手間を大幅に削減できます。また、日々の食事の手配や入退寮手続き、請求処理、設備管理など、運営業務を一括で委託できるのも大きなメリットです。
人事・総務担当者の負担軽減と、社員の快適な生活環境の両立を実現できる仕組みとして、近年導入する企業が増えています。
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自社で建物を持たずに社員寮機能を維持する。売却後も社員を支え続けるための、有効な“新しい社員寮の形”といえるでしょう。
借上げ社宅・住宅手当制度の導入
社員が自分で選んだ物件に住む「借上げ型社宅」や「住宅手当制度」も有効な代替策です。個人のライフスタイルを尊重しつつ、企業の固定費削減にもつながります。
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売却後の資金・資産をどう活かすか
社員寮の売却で得た資金を、単なる収益として終わらせず、将来の人材育成や福利厚生強化に再投資する企業も増えています。
福利厚生施策への再投資
健康経営や食堂・カフェスペースの整備、リモートワーク支援など、「住まいの代わりに働きやすさを高める施策」に資金を振り向ける企業が増加しています。
人材開発・教育への再配分
社員寮に代わる“人を育てる投資”として、研修施設や教育プログラムに充てる例もあります。
地域や社会への還元
地域に貢献する形での譲渡や、売却益の一部をCSR・ESG活動に充当する企業も見られます。
単なる資産売却を、社会的価値の創出につなげる動きです。
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社員寮の売却は資産と人材を再設計する転換点
社員寮の売却は、単なる資産処分ではなく、「企業の資産・人材・地域の関係をどう再構築するか」という転換点です。
重要なのは、どんなスキームで売るか、社員をどう支えるか、資金をどう活かすか。短期的なコスト削減にとどまらず、中長期的な企業価値向上を見据えた判断が求められます。
建物を手放しても、社員を支えることはできます。自社にとって最適な“売却後のかたち”を描くことこそが、これからの時代の社員寮戦略といえるでしょう。

